第二章
「星から来るもの」
(前編)
「う~~~~ん」
自室の机に座ったまま、草薙北斗は大きくのびをして、固まった肩の筋肉をほぐした。
背は、あの頃にくらべてだいぶ伸びた。
もうすぐ、中学校の制服を作り直さなければならないかもしれない。母は、兄アルテアに似てきたと、笑う。
部屋の窓からは、星見町の名に恥じぬ星空が見えた。
中学校の課題は、小学校の頃に比べれば数も多いし、高度だ。自分の頭で考えなければならないこと、自分で調べて自分の考えをまとめなければならない内容も多い。
『……ですがねえ。結局ガルファ皇帝だってあの螺旋城だって、アルクトス人が作ったもんでしょう? そのリスクを我々地球側が負わなくちゃいけないのはどうなんだ、ということですよね』
「…………」
手元に置いたタブレットでは、ニュース番組の無責任そうな若いコメンテーターがいかにも世間受けしそうな放言をしていた。
『あの電童だって、アルクトス人が作った兵器だというじゃないですか。正直そんなものを信用できるんですか? 政府はアルクトスとの交流を進めると言ってますが、どうかなあ~。違う星同士が関わったっていいことないですよ』
北斗は、ニュース番組を切った。
元々、カーレースの中継を見たくてつけていたチャンネルだ。
彼がアルクトスとのミックスであることは、世間には知られていない。
ガルファとの戦いの中で指揮を取っていたベガの素性については一切発表されていないからだ。
ただ、それと北斗自身がその事実をどう受け止めているかは別の問題だ。
伯父であるアルテアは、北斗のことを明確にアルクトスの王族と見なしており、会うたびに成長したらアルクトスの復興に力を貸してくれるようにと語りかけてくる。
その気持ちはわかる。
祖父である西園寺実は口にこそは出さないが北斗に西園寺家の後継者となることを期待しており、地球人としてこの星で活躍してくれることを期待している。
その気持ちもわかる。
父も母も、伯父も祖父も、北斗に何かを強要することはない。
電童に乗っているのも、中学校に通っているのも、北斗の意志だ。
そして、地球人として暮らしていることも。
(アルクトスとの交流で、世界は大きく変わろうとしている)
ガルファの暴虐によって潰滅したアルクトスではあるが、そのテクノロジーは地球の数百年先を行くものだ。地球に流入したアルクトスのオーバーテクノロジーは、少しずつ、だが確実に北斗たちの生活を変えつつある。一方で、アルクトスは復興のために地球の資源と技術を強く求めている。それもまた事実だ。
ふたつの星は、互いなしではこれから存続することはできないだろう。
そして、交流はより密接になっていくはずだ。
その時自分はどうするのだろう。
自分のルーツを明らかにするのが正しいのだろうか。
地球人として暮らしていくことが正しいのだろうか。
北斗の中に、答えはまだない。
(大人になれば、答えが出るのだろうか?)
それもわからない。
わからないまま、北斗は課題のエンピツを動かす。
* * *
「ふぅ」
八割がた課題を終えたところで、北斗は喉の渇きを覚えた。
ラストスパートにかかるまえに、何か飲もうと、一階の喫茶店に向かう。冷蔵庫にあった輸入物のジュースが美味しかったことを思い出したのだ。
(あれ、母さん?)
喫茶店のカウンターにノートパソコンを置いて、母が――いや、ベガ司令が座っていた。
「……それは、本当なのね?」
久しぶりに聞く、母の戦士としての声だった。
何かあったのだろうか、と我知らず北斗は耳をそばだてる。
だが、次に聞こえてきた言葉は、予想をはるかに上回るものだった。
「螺旋城が動き出した――そうなのね?」
* * *
――時間は、少し戻る。
* * *
宇宙の虚空に星はまたたかない。
星がまたたいて見えるのは、大気の干渉によるものだ。
だから、星は何にも邪魔されることなく輝いて見える。
吉良国進は、その光景が好きだった。
コクピットのCG映像ごしに、星が掴めるのではないかとさえ思える。
(まさか――自分が宇宙にまで来るなんて思ってもみなかったよなあ)
数年前、星見野アミューズメントパークでバイトをしていた彼は、その地下に隠されていたギアの本部を発見してしまい、そのまま入隊してしまったという経緯を持つ。
それが、今ではギア宇宙艦隊のパイロットとして地球軌道上にいる。奇縁と言わずして、なんと言おう。
彼が乗っているのは、ギアの空中電池換装機〈セルファイター〉ではない。
電童と同じ、人型の巨人である。
グレーのロービジ迷彩に塗られたその機体は、ぱっと見には電童そのものだが、よく見ると簡略化されたバイザータイプの頭部や、簡略化された腕部・脚部のハイパープラズマドライブ、背部に増設された大型のロケットブースターという違いがある。コクピットも複座ではなく、単座だ。
この試作型のマシーンはD兵器と呼ばれている。
D兵器の“D”は電童のDで、これが地球による電童の量産タイプであることを意味している。
もっとも、基礎技術はアルクトスから供与されたものだ。かつてアルクトスでは七体のGEAR戦士を筆頭に、数千体、あるいは数万体の量産型GEARが動員されていたという。その量産モデルのデータが発見されたことから、GEARの新戦力として加えられたのが、D兵器だ。
北斗少年などに言わせると、「GEARの量産型ならG兵器のほうが正確かもしれないけど、G兵器は縁起が悪いよね。試作機が敵に奪われちゃいそうだし。あ、でもD兵器だと量産タイプのほうが電童より強くなるのかな。それはそれでイヤだな」ということになるらしいが、アニメのネタがレアすぎてギアにはほとんど理解できるものはいなかった。
それはともかく――――
ギアきってのパイロットであり、ガルファ戦役を生き残った吉良国は、このD兵器のテストパイロットに選抜されていた。
データウェポンにこそ対応していないが、大気圏の内外で活動可能、単体の推力で地球重力を離脱できるだけの出力は健在である。
平和になった地球にそんな兵器が必要なのか――?
吉良国は、
「いる」
と思っている。
もちろん、人間同士が戦うためではない。
再びGEAR戦士が必要になるような災厄が地球を襲った時のための備えである。その時に、北斗や銀河のような子供を戦わせるのは、やはりおかしい。
選ばれた者しか使えない電童に地球の命運を託すのではなく、訓練すれば誰もが使えるマシーンによる地球の防衛。
そのテーゼには、ギアのスタッフも、そして北斗も銀河も同意していた。
地球軌道上に遺棄された螺旋城群の監視のため、吉良国が出撃しているのも、その開発プロジェクトの一環である。
吉良国のD兵器の後ろには、さらに二機のD兵器が続いている。乗っているのは、ギア・ナイジェリアとギア・インドから派遣されたパイロットだ。
現在のギアは、かつてのような秘密組織ではない。
国連の管理下に置かれた国際的な防衛組織である。組織改編の紆余曲折は著しく、前司令の渋谷は国連に貼り付かざるを得なくなっているほどだ。吉良国自身も、親に隠していた真の就職先を説明せざるを得なくなり、一騒ぎあったのだが、これなどは喜劇の部類に属するものだろう。
「こちらD1。予定空域に到達。螺旋城からの電磁波観測、送ります」
『こちらメテオ。データ受信。電磁波波形に過去との相違、認めず』
通信機ごしに、浅野愛子の声がした。ギア本部から、そのまま艦隊旗艦のメテオのチーフ・オペレーターとなった才女である。
二人の仲は、三年前よりわずかに進展はしたものの、一進一退である。今年のバレンタインデー、つまり彼と愛子の誕生日にプロポーズをしたのだが、
「やだ」
の一言でかわされてしまったのだ。
愛子に言わせると、今自分たちが結婚すれば、どちらかが職場を離れなければならない。それを避けようとすれば退職ということになる。どちらであれ、今のような関係を続けることはできなくなるだろう。そして、ふたりはふたりとも、今の仕事にやりがいを持っている。それなのに、転職すればかならず後悔する――
その理屈は、わかる。
吉良国が好きになったのは仕事をしている愛子なのだから、愛子から仕事を奪うのは、良くないことだ。
故に、現在でも吉良国と愛子は、つかず離れずの関係を続けている。これを大人の関係とみるか、モラトリアムを続けている子供っぽさと見るかは、さて、吉良国自身にも答えの出ないところであった。
(次の休暇で、また話してみるか――なに、時間はまだまだあるんだ)
北斗と銀河に“きらくにすすむ”さんと揶揄される楽観主義で、吉良国はそんなことも考えた。どちらにせよ、宇宙飛行士とパイロットの現役寿命は短い。あと五年か、遅くとも十年したら、吉良国も現場を引いて後進の育成に回ることになるだろう。そうなってから人生設計を話し合ったっていい。
そんなことを考えたその時。
D兵器のセンサーが鳴った。今までに聞いたこともない、けたたましい音だった。
『螺旋城C-89から、異常信号を感知!』
「! 各機、全周囲警戒!」
お気楽な性格だが、吉良国も激戦を生き抜いたパイロットだ。部下たちに指令を発すると、みずからも回避運動を取りながら、首を巡らせて索敵をかける。最後に信じられるのは自分の眼であることを、彼はよく知っていた。
「来るぞ!」
吉良国が叫んだのと、センサーが反応したのと、彼のD兵器のすぐ側を荷電粒子ビームがかすめたのはほぼ同時だった。
動物的なカンである。
「うわっ!」
フットペダルを蹴り込み、増速する。
先ほどまで吉良国がいた空域を、プラズマの嵐が灼いていった。
地球軌道上で、こんな攻撃をかけられる敵は、ひとつしか知らない。
吉良国は予想が外れてくれ、と祈りながら、センサーを最大望遠に切り替えた。
そして、それはそこにいた。
『ガルファ素体を確認!』
「おおっと!」
モニターに映し出される、ぬめっとした輝きを持つ金属のシルエット。蟲か人を戯画化したような、全高10メートルほどの姿。忘れはしない。三年前に地球を襲ったガルファの“素体”と呼ばれる兵器だ。
遺棄された螺旋城内部には、無数の素体がそのままにされていた。危険性は再三指摘されていたが、安全な解体方法もわからないまま闇雲に攻撃を仕掛けることで、螺旋城のセーフティが起動して暴走することを危惧し、軌道上で厳重な封印が施されていたはずのものだ。
なぜ、ガルファ皇帝を失った今、それが再起動したのか――?
なぜ、今になって動き出したのか?
そんな疑問は、戦ってから考えればいいことだ。
先ほどまでの甘ったるい考えはどこかに吹き飛んでいた。
腰の後方にセットしたビームライフルを構え、同時に右肩のミサイル・ランチャーの照準を視線誘導でロックする。
同時斉射。
光とミサイルの嵐が、素体群を飲み込む。
当然だ。
この日のために鍛え続けてきた。
この日のために待ち続けてきた。
決して来るべきではなく、来て欲しくもない時に備えた、無限の待機――
それが終わったのだ。
「怯むな! D兵器の火力は、ガルファに通用する! 三年前とは違うぞ!」
吉良国は後続の二機を叱咤激励した。
前の戦いでは、地球側の防衛兵器はそのほとんどがガルファ素体に乗っ取られ、“機獣”と呼ばれる無人兵器に改造されることで、地球に牙を剥いている。だが、D兵器は違う。ガルファ素体への抵抗力を原型機である電童から受け継いでいるのだ。
三機のD兵器が、手にした火器を放つ。
本来は武器を持たず、徒手空拳で戦うGEAR戦士だが、D兵器にはかつての戦いで開発された〈フルアーマー電童〉用の兵装が搭載されている。もっとも、ヨーヨーやゴーガンといったいまひとつ実用性の低い趣味的な武器は削られ、ライフルやミサイルといった“リアルロボット的”な武装に限られていたが。
だが、その威力は本物だ。
次々とガルファ素体が撃破されていく。
「メテオ! すべての螺旋城が覚醒したのか!?」
『いいえ――螺旋城C-89だけです! C-89に搭載されていた素体だけが起動したと推測されます』
愛子の言葉は吉良国を少し安堵させた。
月軌道上の螺旋城すべてが起動したわけではないらしい。もしそんなことになれば、今度こそ地球はおしまいだ。ひとつやふたつの螺旋城は電童が破壊できても、残りの螺旋城によって地球は死の星に変えられてしまうことだろう。
「だったら話は早い! 機獣や機士が出てくる前に、素体群を掃討するぞ!」
吉良国は加速をかけた。
右肩のミサイル・ランチャーをパージすると、脚部にマウントされた両刃の斧を引っこ抜く。
「ダブルトマホォォォォォク、ブーーーーメランッッ!」
文字通りブン投げたトマホークが、十数体の素体を両断し、光の球に変えた。D兵器の出力は、日本の総電力の二倍に相当する。そのエネルギーで投げつければ、大気のない宇宙では単なる斧すら、超強力な質量弾になるのだ。
戻ってきたトマホークをキャッチすると、さらに吉良国はビームライフルの連射で、素体を三機破壊してみせた。
さらに、後続の二号機と三号機がそれぞれビームを放ち、討ち漏らした素体を破壊していく。
(おかしい――)
歴戦の吉良国には、ガルファ素体の動きが闇雲に感じられた。戦術的な意志というものが感じられないのだ。かつて、親衛隊長ゼロに率いられていた時の素体群には、もっと鋭角的な意志があった。それがない。
気を取られていたその時、数発のビームが吉良国機の装甲を叩いた。だが、貫通はしない。電童譲りの頑強な装甲は、素体の火力程度で貫徹できるものではなかった。
(これならやれる!)
吉良国は疑問を振り捨てることにした。戦術的なことは、メテオとベガ司令に任せればいい。
「メテオ! 火器コンテナを射出してくれ!」
『了解!』
後方のメテオから、D兵器用の火器を満載した無人コンテナが射出された。三機のD兵器はコンテナに接舷すると、撃ち尽くしたミサイルやライフルをパージし、新しい火器に換装する。かつての〈フルアーマー電童〉の戦訓を生かした装備だ。
「よし!」
吉良国は勇躍、第二波、第三波の素体群の迎撃に向かった。すでにメテオも戦場に到着し、火力支援を加えている。
戦場の光芒はプラズマと火焔の輝きで、色とりどりに宇宙を輝かせた。
* * *
十数分の激戦の後――
ギアの機動部隊は素体群のすべてを迎撃した。
吉良国たちの被害は、D兵器の三号機がバックパックの化学燃料ブースターに被弾して後退しただけである。
新生ギアの、そしてD兵器の初陣としては十分な戦果といえた。
『残った螺旋城に起動の兆候は?』
メテオのモニターに映し出されたベガ司令は緊張を解いていなかった。当然だ。
「ありません。C-89も素体を放出した後は沈黙を保っています。ただし、内部にリアクター反応を認めます。C-89は稼働していると見て間違いありません」
『螺旋城の主が目覚めた……? アルクトスの兄上はなんと?』
兄上、すなわちベガの兄であるアルテアは、現在はアルクトスの元首として生き残った民を率いる立場にあった。ガルファ皇帝のハードウェアである惑星管理コンピュータは正常化し、アルテアの厳重な監視下にある。
「アルクトスの王城には異常はないそうです。ガルファ皇帝が復活したとは考えられないと」
「周辺警戒中のD兵器、一号機から十二号機まで、全機がC-89号を包囲しています。ご命令があれば、総攻撃も可能です」
ベガは形のよい顎に手を当てて少しだけ考え、やがて首を横に振った。
『……いえ。電童の発進準備が整うまで待機。包囲を続けます』
その判断に異論を示すものはいなかった。
彼らの眼前で、螺旋城C-89はその巨大なシルエットを不気味に輝かせていた。
* * *
マッハ3で飛翔するギアの新型支援戦闘機〈セルディフェンサー〉から見る世界は、あまりの速さにすべてのものが収束してみえる。世界が自分に向かって閉じてくるような恐怖感さえある。
「ガルファが出たってのは本当なのか!?」
「本当よ。吉良国さんたちが第一波を撃退したけど、螺旋城は依然稼働状態」
正面のシートに座るエリスには、後部座席の銀河に振り向いて見せる余裕があった。一度航路を設定してしまえば、後の操縦はほぼAI任せだ。戦闘にでもならない限り、エリスは計器のチェックだけしていればいい。
「カナロアから日本までフライトして、間に合うのか? 北斗ひとりでも、電童で上がってもらったほうがいいんじゃ」
「電童はふたり揃ってるほうがいいって、ベガ司令が言ってるのよ。それに、セルディフェンサーのスピードならあと30分以内には星見町につけるわ」
「そんなに!? そんなスピード出てる割にゃ、揺れねえな」
「はやいね」
「電童の慣性制御を応用したコクピットになってるのよ。それなしにマッハ3の飛行機に乗ったら、あたしたち、加速のGでバラバラになってるわ」
「そうなの?」
「離陸から一気にマッハ3まで上げるのよ。15Gはかかってるはずだわ。すると、私たちの身体には体重の15倍の重量が前から後ろに襲い掛かってくるのよ。スモウレスラーにぶちかましをされ続けてるみたいなもの」
「そりゃすげえ」
「スモウってなに?」
「スモウっていうのは日本の格闘技で、土俵の上で押し合いをする……あれ、銀河、そもそも日本人でしょ……って、ええ!?」
そこでようやくエリスと銀河は異常に気づいた。
自分たちの会話に割って入っている三人目がいる。
ひょこ、とシートの影から、青い髪の少女が顔を出した。
「ケイト!?」
「誰よ」
エリスはいぶかしげな顔をした。心の中にちょっとだけ、銀河が自分の知らない女の子の名を口にしたことへの嫉妬があった。
「さっきカナロアで会った子だよ。助けてもらったんだ。不思議な力があってさ」
「えへへ、着いてきちゃった」
屈託なくケイトは微笑んだ。狭いシートの間にいたにしては元気そうだった。
「着いてきちゃった、って……あのね、ここは作戦行動中の戦闘機の中なのよ!?」
「だからって放り出すわけにもいかねーだろ。太平洋の上だぞ?」
「あったりまえでしょ! あーもー」
エリスは頭をかきむしった。ギアにどう説明すればいいのか。
とはいえ、エリスは軍人でもスパイでもない。正体不明の女の子に手厳しくしようとは思わなかった。年の頃も自分とさして変わらない。
「星見町につくまではおとなしくしててね。ボタンやレバーには絶対に触らないで、いい?」
「わかった」
ケイトはこくりと素直にうなずいた。悪い子ではないようだ。
「カナロアの子? 日本語、上手ね」
「ううん。あの島で生まれたんじゃないよ」
「え? そうなの? カナロアの人は日本語うまいって聞いてたからそれなのかと思ったぜ」
「ちがうよ」
ケイトは首を横に振った。
「もっと遠くから来たの」
「遠くから?」
「銀河に会いに来た」
「オレに!?」
ケイトは真顔だった。冗談を言っている顔ではなかった。
「うん」
「い、いやぁ、いきなりそう言われてもなあ。どう思うよ、エリス?」
「知らないわよ」
口ではそう言っていたが、エリスの頭はすごい速度で回転していた。
ガルファの復活、螺旋城の異変とともに現われたこの不思議な少女が銀河に会いに来た? それは偶然なのか? 必然だとしたら、それにはどんな意味があるのか?
考えているうちに、機体はあっという間に日本へのアプローチコースに入った。
「着陸態勢に入るわよ! 少しはGがかかるから、ふたりともしゃべらないで! ケイトはサブシートに身体を固定して!」
眼下には、星見町の懐かしい光が見えた。
もう少しだ。
* * *
そして、それは来た。
猛烈なプラズマ放電とともに、包囲下にあった螺旋城C-89が鳴動を開始したのである。
「リアクター反応、極度に増大!」
「反物質の生成を確認! 大量のボソンとフェルミオンが放出されています!」
「衝撃波、来ます! メテオ全面にシールド展開!」
オペレーターたちの叫びが、悲鳴のように響く。
『状況の確認を!』
こんな事態の中でも、星見町のベガとタイムラグなく通信が行なえるのは、アルクトスからもたらされた量子跳躍通信技術のたまものだ。それがなければ、地球とメテオ間どころか、荒れ狂う電磁波の中で、機動部隊と母艦の通信すらままならなかっただろう。
モニターに、最前線の吉良国から転送された画像が投影された。
螺旋城の先端部が膨張し、まるでタマゴのように膨らんでいる。
その膨張した一点からプラズマの蒼い稲妻が拡散し、続いて収束して、光の柱に変わり、消えた。
壁面が砕け、何かが流星のごとく射出される。
「螺旋城の動力反応停止!」
『射出された物体の軌道計算を!』
「! 地球です! メテオは、92パーセントの確率で、星見町に向かっていると計算しています!」
愛子の叫びは悲鳴のようだった。