第一章

「After 3 Years」

(後編)

* * *

「で、どうなんです、渋谷長官? 国連総会のほうは?」

星見町、喫茶《ポラール》。
そのカウンターに座り、ベガ――地球名草薙織絵は、品の良いスーツを着た紳士とノートパソコンでビデオチャットをしていた。ギア司令としてのマスクとベレーこそかぶっているが、他は平服である。時代は移り変わり、かつて喫茶店の経営とギア副司令の立場で苦労していたベガも、今ではリモート勤務の司令官という立場を満喫していた。

「もう長官じゃないよ。かんべんしてくれ」

画面の中で紳士――かつての渋谷長官は苦笑いをした。

「螺旋城解体計画は第二フェーズに進みそうだ。ようやくアメリカと中国の調停が進んでね」
「それはなによりです」

三年前の戦いで、月軌道に安定した無数の宇宙要塞“螺旋城”の扱いは、同様にアルクトスが太陽系の第十番惑星として安定した後も国際社会の悩みの種だった。何しろ、昼間でも空を見上げれば白く輝く螺旋城の群れが見えるのだ。なんとかするにしても質量が大きすぎ、といってふたたび動き出せば何が起きるかわからない。
現在はギアの本部である宇宙船メテオと機動部隊が監視しているが、あまりにも規模が大きすぎて、実際に何かあったときに対策できるかは不明瞭だ。
そこで、螺旋城を解体し、そのオーバーテクノロジーを地球とアルクトスのために使おう、というのが、三年前の終戦時から提案されていたのである。が、オーバーテクノロジーを一国が保持することも望ましくはないため、各国間の力関係の調整のために、かつてのギア司令長官であった渋谷が国連本部で奔走していたのだ。

「じゃあ、吉良国くんたちは当分宇宙勤務ですね」

「そうなるな。ファイティングアース型の八番艦が宇宙に上がるあたりで、一度降りてもらうことになるだろう」

「でないと、ワークライフバランスも何もあったものじゃないですからね」

ベガは苦笑した。思えば三年前は、誰も彼もが私生活を犠牲にして奔走していたものだ。だが、今は平時であり、平時には平時の戦い方がある。艦隊勤務のメンバーに休みを取らせることも、ベガの大切な仕事だった。

「ただ……気になることがある」

「なんです?」

「君から報告が上がっていた件だ。螺旋城から、周期的に強力な電磁波が発信されていると言っていただろう?」

「ええ。“メテオ”のデータをアメリカ支部に送って解析をお願いしていましたね。結果が出たのですか?」

メテオ、とは、ベガがかつてアルクトスから乗ってきた宇宙船の名であり、その中枢コンピュータの愛称でもある。現在のところ地球に残された、唯一のシンギュラリティAIだ。

「ああ。アメリカの分析では、その電磁波が地球磁場に影響を及ぼし、気候に影響を及ぼしている可能性が高いと言ってきた」

「やはりそうですか」

「では、螺旋城がまだ何らかの意志を持って行動を?」

「その可能性は極めて低い。ガルファ皇帝のシステムはバックアップも含めて完全に破壊された。それは間違いない――だが、螺旋城のハードウェアそのものは残存している。一部の国は、螺旋城の即時解体を要求しているよ」

「藪をつついて蛇を出す――ということわざが日本にはありますね」

「人間というのは概して、問題の原因らしいものを発見すると短絡的な手段を選びたがるものだからね――だが、“らしいもの”は往々にして原因ではないし、除去するのも単純ではない。そこを見誤ると」

「ガルファ皇帝のように、人間を排除すればいい、ということになってしまう。そういうことですね」

「そうだ。我々の仕事は粘り強くやるしかない。とにかく今は警戒だけは怠らないようにしてくれ」

「わかりました。電童、凰牙ともに、メンテナンスは万全にしておきます」

「よろしく頼む」

モニターの向こうで、渋谷の顔は消えた。次の政治的な折衝があるのだろう。現場を離れたとはいえ、楽にはならないものだ。

「ふぅ」

ため息をついて仮面を外し、ベガは喫茶店の天井を見上げる。
ガルファ皇帝によって太陽系まで運ばれてきた惑星アルクトスは、太陽を回る惑星の一部となり、平穏を取り戻しつつある。地球とアルクトスの技術交流も、紆余曲折を経てではあるが進行している。
いつか――
いつかこの仮面を外し、ベガというひとりのアルクトス人として、地球の人々と手を取り合うことができるのだろうか?
その答えは容易ではない。
だが、愛する家族のためにも、祖国アルクトスのためにも、そして第二の故郷である地球のためにも、やり遂げねばならない使命がある。
そして、実のところベガにとって、そう感じることは不快ではなかった。

* * *

「あー、ケツが痛ぇ」

カナロア共和国タンガロア国際空港、という聞いたこともない南洋の空港に降り立った銀河の、それが偽らざる感想だった。
成田空港から韓国の仁川国際空港までざっと2時間半のフライト、そこから乗り換えて8時間エコノミークラスに揺られると、いくら健康な男子中学生でも腰に来る。

「暑さはそこまでじゃねえなあ」

気温は星見町より高いのだが、湿度が低いのが幸いしているのだろう。カラッとした暑さで、透き通るような青い空を楽しむ余裕があった。これなら、水分補給さえ欠かさなければ楽しく過ごせるだろう。

「問題は、だ……」

銀河は機内預けの荷物をベルトコンベアから受け取ると、ひとつ大きなため息をついた。
このカナロア共和国を銀河が訪れたのは、彼の父親である源一の赴任地だからである。銀河の父は敏腕な報道記者で、年中世界を飛び回っている。今回はこの南太平洋の孤島の取材に訪れ、現地でよろしくやっているらしい。

(それが問題なんだよな……)

銀河の父は驚くほど語学力と適応力に優れた人物で、現地の文化にすぐに染まりきってしまう。それはつまり、フランスに行けば得体の知れないフランス語訛りのプレイボーイと化し、エジプトに行けばラクダにまたがった正体不明の砂漠の民に変貌する、ということだ。
果たして。

「お~~い、銀河!」

来た。
到着ゲートで待っていたのは、アロハに似た派手なシャツを着て、ショートパンツを履いたサングラス姿の父親だった。

(どうやら、日本語を喋ってるな……)

今度はどんな訛りなのか。前にフランス語訛りになった時は発言の七割がフランス語で占められてしまい、理解にすら苦しんだ。正直、父親のセリフにはすべて字幕をつけてほしいとすら思ったほどだ。

「待っておったぞ! 無事に到着したようで祝着至極!」

「……何ぃ!?」

父親が口にしたのは日本語だった。

* * *

「小生が日本語を話すことがそんなに意外かね、愛息よ」

「父ちゃん!? いや、思いっきり意外だよ! なんなんだよその日本語! そんな口調じゃなかっただろうが!」

 ホテルへ向かうレンタカーの中で、銀河は父親に食ってかかった。いや、冷静に考えるとそもそも自分の父親がどんな口調で喋る“日本人”だったかはたいそう心許ないのだが、それでも今の父がおかしいことはわかる。

(まさか、外国語訛りじゃないとはな……)

「このカナロア共和国は、昔、日本だったのだよ」

ハンドルを握る父親はこともなげにそう言った。

「へ? いや、ここどう見ても日本じゃないだろ」

ちちち、と源一は立てた指を振ってみせた。

「第一次世界大戦の後、日本は委任統治領としてこの島を支配していたんだ。本国とは違う法体系を持つ植民地としてね」

「日本が……?」

そういえば、歴史の授業で習ったことがあった。
遠い昔、日本は海の向こうに“進出”し、様々な国を占領下に置いていたことがある、と。今思い出すまで、それは遠い遠い記憶のようなもので、現在の自分と関わりを持ってくるとは思わなかったが……。

「だからカナロアではまだ日本語が通じるのだよ。小生たちの話す言葉よりはだいぶ古いがね」

「なるほどなー」

まあ、日本語が通じるだけだいぶマシな父親だ、と考えることにした。

「……で、なんでこんなとこまで呼び出したんだよ」

「無論、愛息の心身を案じてのことに他ならぬ」

「オレを?」

「お主が電童に乗ってからもう三年になる。その間に、色々と考えることがあるのではないかと思うてな」

「……そんなことねえよ」

「嘘はいかん。今のお主の心は揺れておる。風に揺れる椰子の木のように」

(……これだ)

おどけて見せる父親だが、ひどく鋭いのだ。
幼い頃から、隠し事ができたためしがない。かならず、ズバリと心の中に入り込んでくる。
はぁ、と銀河はひとつ、大きなため息をついた。
隠そうとしても、どうなるものでもない。

「昔はさ。どんなヤツでも北斗と一緒ならやっつけられると思ってたんだ。電童に乗ってれば、絶対に負けないと思ってた」

「そうだろうな」

「……でも、今は、電童じゃ倒せないことばかりが、目の前に現われるんだ」

「そんなものだ」

いつになく、父親は真面目な口調で言った。
いや――もしかしたら普段から父親は大真面目で、単に日本語を話しているからそれが理解できるだけなのかもしれなかったが。

「世の中のほとんどのことは、力では解決できない。貧困、飢餓、疫病、無知、差別――そういったものだ」

銀河は父親の意図を図りかねた。
自分たちが電童で戦うこと――つまり、“力”では解決できないことがある、と言いたいのだろうか? 土砂崩れを止めることができても、土砂崩れの発生原因とは戦えないように。

「なあ、父ちゃん。オレたちがやってることって、意味がないのかな」
「否」

父は軽く微笑んだ。

「何度火事が起きるとしても、火事場に飛び込んでいく消防士にはそれだけで意義がある。だが、火災の原因を消し去ることは、消防士の仕事ではない」

「………………」

そうだろうか。
そうかもしれない。
だが、そうではないのかもしれない。
もっと自分にはできることがあるのではないか。
電童の力で、何かを成し遂げられるのではないか。

「焦るでない」

信号待ちで、車が止まる。
父親が、じっと銀河を見ていた。

「焦ってねえよ」

嘘だった。

「この島で、自分を見つめ直せ。何かが見つかる」

「何かってなんだよ」

「何かじゃ」

カカカ、と父親は笑った。笑い方まで時代劇のようだった。

「電童を離れ、生まれ故郷を離れ、そうして見えてくるものもあろう。どんなことも、体ごとぶつかって見えてくるものだ。父はいつもそうしてきた。だがな」

信号が青になり、車が動き出した。

「答えを見つけ出すのは、いつも自分だ」

父親はそう言って、ホテルまではその後、何も話さなかった。

* * *

「ふぅ」

夜の砂浜を、銀河はひとり走っていた。
日課の少林寺拳法の自主トレを終えても、まだ身体が温まって動きたがっていたから、砂浜をつま先立ちで走ることにしたのだ。そうすることで、負荷を強くして、足腰を鍛える。昔、母が広島でやっていたトレーニング方法だと聞いた。

(なんでも試してみなくちゃよ)

筋肉が心地の良い悲鳴を上げていた。
昨日より今日、今日より明日。強くなったことを実感できる、武術というものが銀河は好きだった。
誰かと戦うのではない。
自分と戦うのだ。
拳法の師でもある母は、よくそう言っていた。
拳禅一如、力愛不二、守主攻従、不殺活人。
心身を鍛え、力と愛を共に備え、不正な暴力から身を守り、人を傷つけず人を生かす。
それが少林寺拳法の精神だ。

(親父が言いたいのも、そういうことなのかな)

わからない。
わからないまま、走る。
わからないから、走る。

* * *

坂道を上りながら、空を見上げる。
星が、綺麗だった。
星見町では絶対に見られないほど、澄み切った空。
その空を、満天の星々が彩っていた。
全天を天の川が輝かせるその光景は、まるで銀河自身を、星の海に呑み込んでしまうのではないか、と思わせる。
だが、この空でさえも、汚れているのだ、と父親は言った。
加速する異常気象が、この南の島を脅かしているのだという。それは気候変動と相まって、島そのものを沈めてしまうかもしれないのだ、と。
父は、その異常気象の原因を追っているらしい。
人々に警鐘を鳴らし、国際的な対策の機運を高めるために。

(あんな親父だけど、戦ってンだよなあ……)

銀河は苦笑した。
小学生の頃より、そういうことは少しはわかる。
家族の生活のため、地球の未来のため。
戦っているのは、電童に乗る自分たちだけではないのだ。

「!」

坂道を登り切る。
足を止めた。
眼前には、もうひとつの星の海が広がっていた。
頭上だけではない。眼下に、無数の星々が広がっている。

「これって……」

正体は、すぐにわかった。
海だ。
夜の海に夜光虫が集まって、まるで星の輝きのように見えているのだ。
星々の中、銀河の鼓動だけが聞こえてくる。
どこまでもたったひとりなのに、たくさんの意識に包まれているような感覚。
世界の中で、自分はこれほどちっぽけなのだと、その景色を崖のふちから見下ろす銀河は痛感した。
空に浮かぶ星々の中には、たくさんの人類が住んでいるという。銀河の親友である北斗の母も、そんな星から来た人類のひとりだ。そして、ガルファはそうしたすべての人類を滅ぼすために戦っていたのだという。
だから、地球人はこの宇宙で、孤独ではない。
アルクトスにも、まだ知らない星々にも、何億、何兆の人々がいる。もしかしたら、トモダチにだってなれるのかもしれない。
無意識に、銀河は空に向かって手をのばした。
星を掴めると思うほど子供ではない。
でも、何かが掴めるのではないか、と思った。
その時。
真っ白な夜空を、蒼い星が走った。
流れ星だ。
銀河は我知らず、祈った。
自分が戦う意味を見つけられるように、と。
子供っぽいかもしれなかったが、何かに縋りたい気分だった。いや――縋りたいというのは違う。問いかけることで、答えを見つけたかったのだ。悶々としているのは、銀河らしくなかった。

(見つけたいんだ――オレがこれからも、北斗と一緒に電童に乗る意味を――だからよ、力を貸してくれ――)

そう、祈った。
もちろん、何かが起きることを期待したわけではない。
決意を心の中で口にしただけだ。
だから、次に起きたことは、銀河を本当に驚愕させた。

(え?)

流れ星が、大きくなったのだ。
眼をこする。
見間違いではない。
星が、こちらに向かって、迫ってきている――――!

「嘘だろ、おい!?」

叫んだ時には、もう視界のほとんどが、蒼い光で埋め尽くされていた。
風が、唸る。
大地が、揺れた。

「地震!? こんな時にか!?」

普段の銀河なら、反応できたかもしれない。
だが、蒼い光に呆然としていたがために、一瞬だけリアクションが遅れた。

(やべっ)

頭は理解しているが、身体がついてこなかった。
足下の大地が崩れ、全身が重力の支配を離れて自由落下する、不吉な浮遊感があった。
下は、夜の海だ。
飲み込まれたら、助からない。

(マジか)

満天の星空を見上げて、銀河は唐突に訪れた自分の死に、恐怖というよりは驚愕した。
死。
電童に乗っている時は幾度となく覚悟した死。
だが、こんな形で訪れるとは思わなかった。
落ちる。
数秒後には、昏い海の底に叩き付けられる。
崖の高さからして、海面はコンクリートの硬さに変わって、銀河の身体を砕くだろう。

(イヤだ)

それは純粋な生への渇望だった。

(オレはまだ、答えを見つけてない)

それは少年の心からの叫びだった。

(だから)

無意識に、手を伸ばした。
いつもなら、北斗が握り返してくれるはずの手だ。

(バカだな、オレ――あいつはここにいないのにさ)

だが。
確かにその手を握る者がいた。

「え!?」

錯覚ではない。
暖かい手が、銀河の身体を崖の縁につなぎ止めていた。
視線を、上げる。
そこにいたのは、ひとりの少女だった。
年の頃は、たぶん銀河とさほど変わらない。貫頭衣のような白いワンピースを着て、青く輝く、不思議な髪の色をしている。

「大丈夫」

はっきりした日本語で、確かに少女はそう言った。
そして、銀河の手を掴んだ腕に、力を込めた。

「よせばかっ」

少女の意図を理解して、銀河は慌てて叫ぶ。
銀河の体重を考えれば、少女の細腕で、それも腕一本で引き上げられるわけがない。それどころか、崖はさっき崩れたことからもわかるとおり脆くなっている。下手をすれば、いやしなくても、少女もまた夜の海へ飲み込まれてしまう。
だが、次に起きたことは、さらに驚くべきことだった。
ふわり、と何かの力が加わって、銀河の身体が宙に浮いたのだ。
そして、まるで風船でも引き上げるかのように軽やかに、少女は銀河を持ち上げ、崖の上へと戻して見せたのだ。

「ね、大丈夫でしょ?」

「お、おう……」

こともなげに言う少女に、銀河はそう答えることしかできなかった。
あきらかに彼の知る物理法則を超越した何かが起きていたが、それが何なのか、まるで説明ができなかったからだ。あるいは彼の親友ならば、もっと科学的な解説ができたのかもしれなかったが――
だが、それより先に言わなければならないことがある。

「助けてくれて、あんがとよ。オレ、出雲銀河」

「ギンガ?」

おうむ返しに少女はそう言って、首を傾げた。

「あ……ええと」

もう一度自分のことを指差し、銀河は自分の名前を繰り返すことにした。

「ぎ、ん、が。オレの名前」

「名前!」

ぱあっ、と少女は表情を輝かせた。

「私はね、ケイト! ケイトだよ」

「ケイト?」

欧米人か、とも思ったが、名前のイントネーションは、日本語だった。蒼く輝く髪の毛も、まさかパンクロッカーか何かとも思えない。だが、少女が自分を助けてくれたことだけは、間違いないのだ。

(えーっと、この後何を言えばいい!? 何を言えばいいんだ!?)

銀河は自分の頭がわやくちゃになるのを感じていた。クラスメートの女の子や、戦友のエリス・ウィラメットと話す時のようには行かなかった。どういう風に、異国で知り合ったこの不思議な少女と距離を詰めていいのか、いやそもそも距離を詰めることが許されるのかわからなかった。

(余震が来たらやべーから一緒にホテルに戻ろう、とかか? いやそれナンパみてーじゃんか。じゃあ何を言えばいいんだ!?)

「あ、あ、あ、あの」

沈黙に耐え兼ねつつ、しかし言葉を繋げもせず、奇声を上げることしかできない銀河の狼狽を知ってか知らずか、少女は空の一角を指差した。

「来たよ。キミの迎え」

「迎え?」

さらに意図がわからなかった。
いくらあの親父が奇人変人でも、空の向こうからは来ないだろう。
だが、聞こえてきたのは、聞き慣れたジェットエンジンの金属音だった。

(こいつは……!)

ふたりの眼前に、風を纏って舞い降りてきたのは、一機の紅いVTOL機だ。近未来的なフォルムをしたそのコクピットが開くと、身体にぴったりとしたパイロットスーツを着たひとりの少女が姿をあらわす。
見慣れた顔だった。

「エリス!? おまえ、どうしてここに!?」

「銀河! 良かった!」

ギアの本部から銀河の位置はモニタリングされている。だが、それにしてもいきなり飛行機を飛ばしてくるというのは尋常ではない。

「何か……あったんだな?」

銀河の顔は、すでに戦士のものになっていた。
迷いはない。
自分が必要とされているなら、どこにでも行く。
その覚悟はできている。

「機士よ」

エリスの言葉は、自分に言い聞かせるようだった。

「落ち着いて聞いて――機士が地球に降下するコースを取っているわ」

それは滅びたはずの過去からの、戦雲を告げる呼び声だった――