第五章

「自分の瞳で」

(後編)

* * *

翌日、呼び出されたのがGEARのブリーフィング・ルームで、待っていたのがエリスだけではなく、ベガだった時点で、銀河にも結論は見えていた。

見えていたが、聞かねばならない。

中学生になったのだからそれくらいの節度はある。

「結論から言います。ケイトは、基地内での隔離が決定しました」

「ちょっと待ってくれよ!」

訂正。

節度はすぐに吹き飛んだ。

いくらなんでもムリヤリ過ぎる、と銀河はそう思ったからだ。

「理由を説明してくれよベガさん」

「僕も、理由を聞きたい」

食い下がったのは銀河だけではなかった。無理もないことである。

「私から話すわ」

一歩進み出たのは、エリスである。目の下に露骨なクマがあった。おそらく一睡もしていないのだろう。そういえば中学校も欠席していた。

「ケイトの脳は、量子通信によってラゴウと同期している可能性が極めて高いの」

「リョウシ……なに?」

「すごく高速で情報を処理できる通信手段だと思えばいいよ」

北斗が補足してくれたのは、助かった。

「そんなこと人間にできるもんなのか」

「人間には無理ね。脳内シナプスが、特異な構造をしていて、ある種の送受信機として機能しているのよ。旧ソ連海軍が研究していたテレパシーに近いかもしれない。正直、詳細な原理になるとお手上げ」

「つまり、ケイトは超能力みたいもんで、ラゴウと交信してる?」

「その理解で間違ってないわ」

エリスはひとつ、大きなため息をついた。

「二回目のラゴウが、一回目のユニコーンドリルを学習してたの、覚えてるよね?」

「忘れいでか」

「そうよね。あれは、ラゴウそのものが学習してるんじゃないの。おそらく……ケイトが観測したデータを、ラゴウが回収して、次の個体に学習結果を送っていると考えられる。AIが大量のネット上のファイルをディープラーニングして学習モデルを作り出すように、ケイトはこの世界というシステムをクローリングするための存在なのかもしれない」

「待って、ケイトがラゴウの……ガルファのスパイだってこと!?」

「ンなことあるか!」

「落ち着いてよ」

エリスは銀河と北斗の剣幕に辟易した様子だった。男子中学生ふたりに迫られると、小学生の時とは迫力が違う。

「悪ぃ」

「ごめん」

それはすぐにわかったから、銀河も北斗もすぐに謝った。自分の体や声の大きさで、相手を怯えさせるのは、良くないことだ。

「あくまでメテオの分析結果なのよ。そしておそらく、彼女の意志と関わりなくそれは行なわれている。ケイトは、ラゴウという巨大なシステムの観測装置なのよ」

「巨大なシステム?」

北斗が首をかしげた。

「ラゴウって、ガルファ皇帝のペットだったんじゃないの?」

「あいつがそもそも何だったのか、アルクトスでも正確には把握していないのよ」

そう言ったのはベガだった。

「アルクトス王家が滅亡した時に、ガルファとそれを取り巻くシステムの開発記録はほとんど失われてしまったの。兄上たちは過去のデータをサルベージしようとしているけれど、正直、海の水をコップですくって、海全体をイメージするような作業なの」

「で……メテオが類推したのは、ガルファ皇帝がそうだったように、ラゴウもまた、ひとつの大きなシステムの一部で、私たちがラゴウだと思っていたものは、端末に過ぎないんじゃないかということ……ケイト自身もね」

「どういうこった?」

そろそろ説明は本格的に銀河の理解を超えてきた。授業ならもう寝てしまうところなのだが、あいにくと友達の命がかかっているので寝るわけにはいかなかった。ここは、頭のいい親友が頼りだ。

「つまりね」

「おう」

「インターネットを想像してみて。僕のタブレットや銀河のスマホは、インターネットにいつでもつながってるでしょ?」

「んだな。アプリがアップデートされたりする」

「そう。インターネットという大きなシステムの全体の中に、タブレットやスマホが含まれてる。で、タブレットやスマホのデータはインターネットにフィードバックされる。何を買ったとか、何歩歩いたとか、そういうデータがね」

「つまり、俺たちが戦ったラゴウや……ケイトは、その、インターネットみたいなでっかい何かの一部ってことか?」

ケイトは、のところに、銀河は少し、いやだいぶ抵抗があったが、理解せざるを得なかった。

「そうなるわ」

エリスは冷静に、おそらくはつとめて冷静にそう言った。ここで彼女まで感情的になってしまったら、何がなんだかわからない。それは、この友人の美点だ、と銀河は感じていた。

「だから、こうも考えられる。銀河、あなたのスマホが自分の意志でどこかのサイトにアクセスしたりする?」

「しねえな」

「そう。スマホはインターネットの一部を構成しているけど、スマホ自身がインターネットを意識して行動することはない。ある種の魚の群れが全体としては巨大な魚群として動くにもかかわらず、魚一匹一匹が総体を認識しないのと同じように」

「つまり……ケイトは自分がでっかいラゴウの端末だってことを自覚してない、ってことか?」

「こんな言い方はしたくないけど……色々な嘘発見装置は試したの。脳波認識や高度なAIアナライズ、汗や体温の変化……もう本当にありとあらゆるパラメータで、彼女が嘘をついてないか調べたわ」

銀河はエリスの長い説明を聞き、人間というのは他人の嘘を調べるためによくもそんなに技術を磨き上げたものだな、とズレた感慨を抱いた。疑うために金と時間を費やすというのも、なんというか大人の世界はわびしいものだ。

「で、どうだったんだよ」

「あなたの信じてる通りよ。ケイトはラゴウのことなんかまったく知らなかったわ。ついでに言うなら記憶がないというのも間違いなさそう。ただ」

「ただ?」

「メテオはみっつの可能性を提示してる。ひとつは、そもそもケイトには記憶と呼べるものは存在しないんじゃないか、という可能性」

「世界五分前仮説みたいに、銀河のところに現われた時に、ケイトが作られたってこと?」

「生まれたばっかの赤ちゃんってことか?」

「彼女がコンピュータ・プログラムみたいなものだと仮定すればありえるわ。ケイトは思い出すべき過去を持っていなくて、必要な知識だけをインプットされた存在、ということよ」

「何のために、誰がそんなもの作ったんだ」

「わからないわ。あくまで仮説なのよ。そういう可能性があるってこと。次に、彼女は本来何らかの人格を有して地球に現われたけど、何らかのアクシデントがあって記憶を失った、というパターン」

「記憶喪失の宇宙人、ってわけか」

「ぶっちゃけるとそういうことね。あるいは、アクシデントでアプリにもデータにもアクセスできなくなっちゃった故障したスマホ」

「ああ……なるほどね。僕らが知ってるケイトの人格は、言ってみればアプリのデフォルトOSみたいな状態で、本来の人格――アプリが実装された状態とは違うってことだね」

「……つまり、元のケイトはラゴウやガルファの手先で、今オレたちが知ってるケイトのほうが幻みたいなもの……って可能性もあるのか」

「そうね。出自不明ってことを考えれば、受け入れやすい説でしょう?」

「最後のひとつは?」

「そもそもラゴウの因子みたいなものが、普通の人間であるケイトに植え付けられて、その結果記憶がなくなった可能性」

「アルクトスの王女だった私の脳内にフェニックスエールが潜んでいたでしょう? 同じ性質が、データ生命体にあるのかもしれないわ。それなら、彼女が生物学的には人間でありながら、ラゴウと交信できるのもうなずける」

ベガが補足した。アルクトスの王家の血筋を持つ彼女の中には、最後のデータウェポンであるフェニックスエールが隠れ潜んでおり、その人格としばしば連動して意志を示していた。

「なるほど……いってみればコンピュータウィルスに取り付かれた人間、って可能性か」

「あるいは幽霊に取り憑かれたお姫様、ね」

「いずれにしても」

銀河は頭を掻いた。

「どれが正解なのか、決め手はねーんだよな? だったら、結局ケイトは被害者みたいなもんじゃん」

「ただ、わかっていることがあるわ」

ベガは銀河と北斗を順に見て、ゆっくりと、しかしはっきりとした口調で言った。大人が、子供に割って入らせないときにする言葉の調子だった。

「彼女がおそらくは現在も、どこかに存在するラゴウのシステムに、データを送り続けているであろう、ということよ。これは見逃せないわ」

「ってまさか」

銀河は次にベガが言おうとすることを予測して、慄然となった。

そんなことがあるものなのか。

「彼女を拘束するわ。GEAR本部で、厳重にね」

「待ってくれよ! ケイトはただの女の子だぞ!」

「そうだよ母さん! あの子が何かしたわけじゃないでしょ!?」

北斗も必死だった。

「地球の人と違うかもしれないからって、捕まえるの!? じゃあ僕らだって……」

そうなのだ。

潜在的にガルファとつながっているリスク、何らかのシステムと繋がっているリスク、というのなら、アルクトスの血脈を受けた北斗やベガだってそうだ。普段はそれを意識することはないが、北斗はれっきとした、宇宙人の子供なのだ。

「いや、それだけじゃないよ。僕らはギアコマンダーを通じて電童の意志を、心を感じて電童に乗った……電童の意志に選ばれたってことだよね。それも、ケイトと同じ性質のことなんじゃないの!? 僕らはおとがめなしで、ケイトを牢屋にいれるなんて、それはおかしいよ!」

「わかっているわ」

ベガは、押し殺したような声を出した。これまで銀河が聞いたことのない、大人の、抑制された感情だった。母親としての顔を出さないように、司令官としての仮面を外さないようにしている、そんな声だ。

「でも、アメリカや中国のGEARからは、彼女を殺すべきだという声も上がっているのよ」

「!!!!」

考えてもみなかった選択肢だった。

殺す?

誰を?

人を!?

「ちょっと待ってくれよ! ガルファの機士を倒すのとは訳が違うんだぜ! ケイトは……」

そこまで言って、銀河は言いよどんだ。

理解してしまったからだ。

「そっか……そういう人たちに取ってみりゃあ、ケイトもガルファも、一緒なのか……」

「そういうことよ。人は、理解できないものを排除するものだから……」

ベガの言葉は、重かった。

彼女は少女の頃からずっと、草薙織絵という“日本人”として生きてきたし、今もそうだ。生まれ持った髪の色を隠し、ベガという名前を隠し、仮面を被って生きている。そこには、銀河の知らない息苦しさもあるだろう。……あるいは、北斗にも。

「じゃあ、ケイトは」

「……会ってもらったほうが、いいわね」

* * *

ケイトのいる部屋は、想像していたよりはずっと快適そうに見えた。

研究用のラボを改造したものらしく、壁や床は殺風景なリノリウムのものだったが、窓を模したタブレットPCが吊り下げられて景色が投影されていたり、絨毯やクッションがおかれて、ちょっと見にはワンルームマンションのモデルルームのようにも見える。

部屋全体を包む分厚いアクリルの壁と、その壁に向けられたものものしい複数の装置を除いたら、だが。

「壁には近づかないで。電磁波でシールドされてるから、触れると人体に害がある可能性がある。会話は特殊マイクごしに」

エリスの説明の、ドライさ。

「ケイト」

その光景の痛々しさに、銀河は泣きそうになった。

自分なら、あるいは乙女がこんな目に遭わされたら、とても耐えられない。

だが、透明な壁の向こうで、ケイトはいつも通りに笑っていた。

それがなおさら、銀河と北斗、そしてエリスの胸を締め付けるのだった。

「大丈夫だよ」

ケイトは三人の不安を読み取ったのか、ことさらはっきりと、首をかしげて微笑んで見せた。

「おへや、住み心地いいし。ごはんもちゃんと出てくるし。だから、心配しないで」

嘘だ。

本当はきっと、ものすごく不安なはずなのだ。

生物室のモルモットみたいに、24時間監視される生活なんて、耐えられるはずがない。

「でもさ」

「私があの宇宙から来た怪物を強くしてるかもしれないんだ、ってエリスが説明してくれたの。だったら、みんなを危ない目に遭わせたくないよ」

「ケイト……」

「大丈夫、だいじょうぶだから」

もう一度、本当に信じられないことにもう一度、ケイトは微笑んだ。

自分の不安や不満なんかより、ケイトは銀河たちが悲しい思いをすることが嫌なのだ、というのが、痛いほどわかった。

それからもう、銀河は何も言えなかった。

* * *

そうして。

今に至るのである。

あれからもう、一週間が経つ。

銀河と北斗とエリスの三人は毎日、ケイトの元を訪ねている。

授業のノートを持って行ったり、差し入れのオヤツを運んでいったり、マイクごしにではあるが他愛のないおしゃべりをしたり。

GEARのえらい人たちの中には、電童のパイロットである銀河たちがそういうことをすることも危険だ、と考える者もいたようだが、ベガと吉良国が、

「ケイトの精神が安定しなければ、何が起きるかわからない。彼女は歩く爆弾のようなもので、まずは彼女を安心させてやることだ」

というロジックを使い、ひとまずの納得をさせてくれたようだ。

本当はリモートで学校の授業にも出てほしかったのだが、データの送受信を伴う行為は危険過ぎると判断されて、ケイトの授業についてはGEARの有志が代わる代わる担当してくれている。

少なくとも、GEARの大人たちが、ケイトの人権に可能な限り配慮してくれていることは、確かだ。彼らは三年前の戦いを、宇宙人であるベガやアルテア、そして北斗とともに戦い抜いた人々であり、人を出生や能力だけで判断する愚かさを知っていた。

それでも。

銀河はあの部屋が、何かあったときに爆破できる作りになっていることを知っている。

それが何を意味するのかも。

* * *

「それでもさ」

銀河は、久しぶりに帰宅した父、源一と碁盤を囲んでいた。

もともと囲碁は祖父の趣味だが、銀河と源一もその影響で打たないことはない。理論だけではなく感性がものを言う囲碁が、銀河は最近好きになりつつあった。自分の中の考えが、収束していく気がするのだ。

「オレ、なにもできないんだよ」

「何言うてんねん。電童で戦ってるやろ」

源一は関西弁だった。

大阪は鶴橋のコリアン・コミュニティを取材していたらしい。帰宅するなり、金属の箸と茶碗で飯を食い、大量のキムチを漬け始める凝り性だった。

まあ、それはいい。少なくともリスニングできるのだから突っ込むまい。銀河も別にキムチは嫌いではないし。

「三年前はさ」

銀河がひとつ、石を置いた。

ひとりぼっちの、星のように。

「三年前は、無我夢中で、目の前のガルファと戦ってればそれでよかったんだ。北斗とふたりで電童に乗って、ベガさんや吉良国さんが助けてくれて、もちろんエリスだっていて……頑張ってるうちに、ガルファの星まで行ってさ……それで」

「まあ、人間、生きてればいろんなことがあるさかいな。自分ではあんじょうやってるつもりでも、突然病気になることもあるし、怪我をすることもある」

「それはそうだけどさ」

「ケイトが牢屋に繋がれたんはそら殺生な話やけど……入院やと思ってみ。そんな珍しいことやあらへんで。ずっと元気やった友達が、突然学校に来れへんくなることかて、あるわな」

「黙って受け入れろってのかよ」

父親の真意が違うことはわかっていた。

それでも、銀河は不満を口にせざるを得なかった。心のどこかで、父なら受け入れてくれると思っていたからだ。

この父には、そういう不思議な力がある。

どんな人の、どんな思いも受け止めてくれるのではないか、という不思議な信頼感だ。たぶんそれが、源一のジャーナリストとしての力なのだろう。もしかしたら、一目惚れしたという母も、そういうところに惹かれたのかもしれなかった。

「受け入れるっちゅうのはな、銀河はん」

「?」

「ただ、言うなりになるってのとはちゃうわな。そういうことやあらへんねんで。たとえば、ゲーセンで不良に絡まれて、金出せ、って脅されたとするやろ」

「子供にする例えかよ」

「そういう時に、そんな怖いこと自分に起きるはずない、って泣きわめいてもどもならへんわな。まずは事態を受け入れて、自分に出来ることを考えることしかあらへん。逃げてもええ。助けを求めてもええ。もしかしたら戦うことが正解かもしらん。わからんけど、今起きてることを受け入れることでしか、前には進まれへんやろ」

気がつくと、源一の石が、銀河の石を取り囲むようにしていた。

いつもそうだ。

父は、はっきりとは答えを言わない。

けれど、何かを示している。

何かを語っている。

「受け入れる、こと……」

「難しいなあ。よう、漫画やアニメで、自分の見たものだけが真実だ、って言うやろ」

「言うね」

「あれもまあ、ホンマやけど嘘やねんで」

「どういうこと」

「人間の目も耳も、簡単に騙されるっちゅうことや。昔、ロシアにな、エカテリーナって女王様がおったんや。めっちゃ勉強しはった人で、その時代の人としては、貧乏人のことを考えてはった。その人が、クリミアっちゅうところをトルコから占領した時のことや」

「ふんふん」

「そこを占領したポチョムキンっちゅう将軍は、そらエカテリーナが好きやった。そいでな、クリミアを見に来たエカテリーナが通る村っちゅう村を全部ピカピカに磨いてな、貧乏人や病人をぜーんぶ他のところに移動させて、ニコニコした血色のエエ村人だけを集めたんや。エカテリーナはどう思ったと思う?」

「クリミアの人は幸せなんだ、って思ったんじゃないかな」

「せやろなあ」

源一は苦笑した。

「わてもそう思う。ほんまは戦争で取られたんやから、つらい思いをした人もいっぱいおったやろけど、そういう人はエカテリーナの目には映らへんかったっちゅうことや」

「だから、自分の目で見たからって、鵜呑みにしちゃダメってことか」

「せや。ほんでな、銀河はん」

にか、と源一は笑った。

今度は、もっとタチの悪い笑みだった。

「この話自体が、ポチョムキン将軍を悪く言うための伝説や、っていう人もおる」

「なんだよそれ! 感心して聞いてたのに」

「人間の耳は簡単に騙される言うたやろ」

ケケケケ、とついに声を立てて源一は笑う。関西ノリなのか、単に父親の性格が悪いのかは判然としない。

「まあでも、こういう政治をしてる国はなんぼでもある。独裁国家の定番のお家芸や。わてみたいな外国人が取材に行くと、ピッカピカの町や道路を見せられて、大歓迎してくれてな。どうぞエエ記事書いてくださいよっちゅうわけや。けど、その裏には、絶対に案内してくれへん裏路地やゲットーが隠れとる。そういうところには自分の眼と耳で確かめにいかなアカン」

「どっちなんだ」

「どっちやろな」

源一にも、おそらく答えはないのだろう。

それは、銀河にも何となくわかる。

たぶん簡単に見つかる答えなんてないのだ。エリスも、ベガも、吉良国も、みんなが考えた結果が、今のケイトの状況であるように。

「父ちゃん、ありがとう」

「まあこんな説教ができるのもあと二、三年や。高校生になったら、オヤジの話なんか聞かへんやろ」

親に出来るのは、せいぜい子供のやりたいことに道を作ってやることだけだ、と、これはなぜか標準語で源一は締めくくった。

不思議なことに、囲碁そのものは銀河が勝った。

* * *

その夜。

銀河は、夢を見ていた。

自分が光の中に浮かんでいる、そんな夢だった。

三年前にフェニックスエールに触れた時も、同じような感覚を味わったような気がする。

(そうだ……データウェポンが意志を伝えるときに……こんな夢を見たような覚えがある……)

光の向こうに、ユニコーンドリルとレオサークル、そしてドラゴンフレアがいた。

三体のデータウェポンは、じっと銀河を見ていた。

「おまえたち、何が言いたいんだ?」

レオサークルが、たてがみを動かして、首を振った。

その視線の先に、輝く星がある。

地球ではない。けれど地球にとてもよく似た星。

アルクトスだ。

データウェポンたちは、じっとアルクトスを見ている。

そのアルクトスの幻影に、ケイトの姿が重なり合う。

「アルクトスに……ケイトを連れていく……?」

考えてもみなかったが、言葉にするとすとん、と腑に落ちた。

地球で解明できないことであっても、もしかしたらアルクトスの叡智は答えを持っているかもしれない。

(信じても、いいんだよな)

銀河は、三体のデータウェポンを見た。

データウェポンの瞳が、まっすぐに銀河を見返す。

そして銀河は、夢から覚めた。

ひとつの決意とともに。